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シネマ・リハビリテーション

30歳になって感性が変わったのか、映画が見れるようになったので、せっかくだし、作文以下の感想を書いていきます

『ヘアスプレー』(2007) :: そもそも、「ポップスター」とはなんだったのか

 

ヘアスプレー [DVD]

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 たいてい、「ポップスター」というと、どういう存在のことを考えるだろう?やっぱりセクシーで、スタイル抜群、背丈も高い……といったそういう存在のことを、普通は想像する。だけど、この作品に出てくるポップスターは、チビだしぽっちゃりさんだから、その両方でもない。しかし、たぶん彼女はそれでも「ポップスター」なんだと思う。

 ストーリー的にまとめておくと、髪の毛を固めるためのヘアスプレーが提供している「ナウでヤングな(60年代が舞台だからこれで)」ミュージックバラエティに出ることを望んでいる主人公が、そのオーディションを受けることから始まる。彼女は最初、その容姿をバカにされるが、しかし彼女に惹かれる周囲によって、段々と変わってくみたいなお話だ。

 底抜けに明るいというかまあテンションの高い話であって、見ているだけで疲れる部分と元気の出る部分があって、それはそれで楽しい。そのノリは端的にバカバカしくてよい。

 こういう見方をすると安直になる。60年代という時代背景にクロスオーバーさせるならば「黒人差別」がある。そして差別良くない!

 全くその通りだ。

 しかし、それだとあまりにもつまらない映画だなあと感じるだろう。だってあくびが出るほど正論なんだもの。それは大筋の問題だ。別に俺だって映画が道徳の時間であるべきだとは思わない。しかし、細部を見ていくと、この問題こそが、実は多大な問題をはらんでいることに気が付く。

あらかじめ見られていることについておびえている

 例えば、主人公の母親について考えてみよう。彼女は、クリーニング屋を営んでおり、ほとんど外に出歩こうとしない。なぜなら、自分はふとっちょさんだし、そういう人間が出歩くことは恥ずかしいという。あと、主人公の母親が外に出たことがないという感じは、イプセンの人形の家を思い出す。というより、この映画の時代背景が、それを背景にしている感じはある。

人形の家 (岩波文庫)

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  これは難しい問題だが、一つの論点をはらんでいる。それは、僕たちがそもそも「どう見られるかどうか」ということを、先に考えすぎてしまうのだ。途中でおもしろショップを営む主人公のお父さんととある喧嘩をしてしまうわけだが、それもつまり自分がどういう人間なのかを決めつけてしまう。

 こういうことを言うと簡単にも聞こえるが、これは難しい問題だ。自分もまあどちらかというと落ち込みやすい人間であるから、見た目を気にしたりしている。これは簡単なんだけど、生理的に顔が真っ赤になっちゃうような、根深い問題でもあるとは思う。

 そういう風に考えてみると、途中で出てくる黒人達が「俺たちはサイコ―の人間だぜ」と歌うのは、それらに押しつぶされないためでもあるわけだ。俺たちはそんなんじゃない、というわけだ。これも差別の闘争としてある。具体的にはアイデンティティ闘争(「黒人としての誇り」を取り戻すという戦い)になるわけで、そういう文脈は明確には言われないけど、たぶんそういう映画なのだろうと思う。

「これが未来だ」

 個人的に重要なセリフだと感じるのは、ヘアスプレーショーの司会がいう「これが未来だ」というセリフだ。

 俺の思い込みで語ってしまうけれど、そもそもポップスターとは何かというと、未来を体現する存在であると、この映画の文脈では言えると思う。しかし、「これが未来だ」なんつーのは、研究者や政治家だって十分言えることだ。たぶん、重要なのは、ポップカルチャーの問題は、「これが未来だ」ということを、「楽しい」とか「面白い」に載せられることなのだ。だから、アイドル=偶像というんだけれども、そのアイドルのアイドル性を担保しているものは何かといえば、未来の象徴ということもできるだろう。

 あまりしゃべりすぎるとボロがでるので、この辺にしておくとして、もう一つ、「これが未来である」ということの条件は決して現在の延長上でもないってことだ。だから、主人公が人気になった時に、周囲の女の子はこぞって彼女のまねをする。確かにぽっちゃりさんかもしれないけれども。しかし、ポップスターは、それが未来であるならば、「ポップであることの条件」そのものを書き換えてしまう。

 ルールを変えることを「力」と呼べるなら、ポップのルールを変えてしまう「力」、それが魅「力」ともいえると思う。

 で、面白いことに、この映画を見ていると主人公のファンになっちゃうし、かわいく見えてくる。それを「そんなバカな」と思っちゃうかもしれない。しかし、それを体験できるということこそ、ポップなのだ。

これは考えるのが気がまいっちゃう問題なのだ

 これは難しい問題で、十分に重い問題が点在したりしていて、そのあたりは映画を見ながら考えればいいんだう。だけれども、この映画は明るいものだ。そういえば、主人公が捧げられた「暗闇のなかから一筋の光が見える」という言葉を最後に引用しておこう。つまり、「明るさ」とはたぶんそういう類のもので、この映画の明るさも似たようなものなのだ。