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シネマ・リハビリテーション

30歳になって感性が変わったのか、映画が見れるようになったので、せっかくだし、作文以下の感想を書いていきます

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000) :: 不幸になるしかなかった人々を、僕たちはどう直視すればいいのか

 

ダンサー・イン・ザ・ダーク(Blu-ray Disc)

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  これ、実は初めて見たときって、大学を休学して製紙工場で一年間働いていたころなんですよね。そういうタイミングで見たものだから、なおさら思い入れがあるんだよね。製紙工場で、雑誌を紐で結ぶ仕事をしていたんだけど、工場の内部って同じ音が定期的に流れてくるわけで、だんだんとその音がビートに聞こえてきて、だんだん音楽に聞こえてくる。「あー、わかっているわかっている」という感じ。

 で、わざわざそのころに見た映画を語るのかというと、当時、この作品の感想を見ていて、自分が考えていたようなことを言っているような感想が無かったからだ。端的に言っちゃうと「落ち込む映画」という話で、いま考えると確かにそうなんだよ。最期のシーンなんて「あっ」というか、鳥肌が立つものだし。下手なホラーより怖い。本当に救いようがない。だけど、その救いようのなさというのが、何処か美しさなんだな、って感じでしまう。

 俺も基本的には苦労した人が報われるっていう話は大好きなんですよ。そうじゃないと生きている意味ってなんだという話になると思う。何処かで報われるからこそ、頑張れるという「打算的な部分」というのは何処かで認めなくちゃいけないんだと思う。報われないのに努力する意味があるのかって話だと思う。もし報われないとするならば、そいつが悪いっていう理由を何処かで見つけたいと思う。人格的に劣っていたり、こいつかバカだからだ、とかそういうの。基本的に報われないとするとき、性格に悪い奴がなんか不幸になるというのなら、自分たちの気持ちが収まる。だけど、この映画は基本的に無垢なんですよね。とすると、ますます不幸な目にあうことがわからないということになる。

 この嫌な気持ちっていうのは、実は「自分たちの世界には、努力しようが、いい人だろうが、不幸になる人は徹底して不幸になる」という、そういう現実なんですよね。要するに「不幸に理由はない」という、ごく最もなお話で。この「不幸に理由はない」っていうのは、頭の隅では何処となく自覚したくない感覚なんだけど、でもそんな現実見たくないもんだし、だいたい「不幸が起きる人は何かの理由があって不幸になる」という思考が無いと耐えられない。だからこそ、「たたり」とかそういうものをでっち上げるんだけど。そういう無意識の内部にある「どうしようもないもの」を容赦なく、この映画は引きずりだしてくるんだよね。

 ただ、この映画の「救いのなさの救い」ってのもあって、それは何かというと、主人公の美しさなんだよね。

 もう自分の価値観でしかないんだけど、「不幸である」という生き方がある一方で、こういう風に、ある種の美しさを持ってして生きられるというのも、それこそ本人には何ももたらさないんだけど、凄いな、って思う。それは端的に映像美の問題でもあるのかもしれない。俺もわかんないけど、なんかね、ここにあるのは一つの美しさなんだよね。もちろん、それは何ももたらしてはくれないのね。とはいえ、醜い人が不幸になったとしても、あんまり感情移入できないのは確かなので、そういうことになるんだろうけど。でも、多くの人はここまで美しくは生きられないよ。いや、お前のその「美しい」ってなんだよって言われたら、言葉に詰まるんだけどね。もしかしたら畏怖に近いものかもしれない。たいてい、不幸を一身に受ける人は、穢れていると同時に、神に似た姿が見えたりするんだけど、そういう感じ。

 だから、最後のシーンを見たときに、確かに嫌な気持ちになったと同時に、実は俺は身勝手な感想もあって、「自分が不幸であることと、美しく生きるってことはどういうことか」みたいなことを考えてしまっていた。逆説的に言っちゃうと、この作品の内部にあるのは、そういう「不幸である人」の、一種の「美しさ」であって、それが見えない人々の不幸さでもあって、もっと言えば、それ全体の不幸という話でもあるんじゃないんだろうか。でも、そういのって何の意味がるのっていわれりゃ、うぐ……と言葉が詰まる部分でもある。たぶん、無意識に「何かこの人の人生を肯定しなくちゃ」って思っているのは正直なところ否めない。でも、そうじゃないとやっていけない自分がいるのも確かではあって。

 これは難しい問題ではある。要するに「ただ不幸であった人をどう捉えるか」というのが、この映画のキモであり、そんな大問題なんて普通息が詰まる問題だから、普通は考えたくないんだよ。当たり前だろ。当たり前なんだけどね。だけど、そういう人がいる。そういう人の人生をどう肯定するのか。いや、明確に否定してもいい。あるいは悩み続けてやっぱり結論なんて出ないよって感じになってもいい。

 そういうことを考えるのにいい機会を与えてくれる、すごい映画。でも、数日落ち込む準備はしたほうがいい。そういう映画。