シネマ・リハビリテーション

30歳になって感性が変わったのか、映画が見れるようになったので、せっかくだし、作文以下の感想を書いていきます

『俺はまだ本気出してないだけ』(2013) :: 俺はただ自由ではないだけ

 

俺はまだ本気出してないだけ 豪華版 [DVD]

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 自分は、どちらかというと、ホラーやスプラッターよりは、コメディのほうが好きな人間である。特に「ボンクラ」ものが大好きである。それは自分がボンクラであるという意識と、それに対する言い訳の為でもある。正直、生き方としてはパッとしていないことは十分承知で、「いや俺はまだ大丈夫だろう」というような、そういう慰めをして日々やり過ごしている。

 変な話、『俺は本気を出していないだけ』という映画は、そういう「ボンクラ」の嫌な面を強調しているといってもいい。中年になって、急に仕事を辞めた男が、漫画家になるための夢を見て、バイトをしては新人に怒られたり、「俺は天才だから」という根拠のない自信(これ、要するに自信がないことの裏返しであるということは可能なんだけど)によって、周りの人に不愉快な気持ちにさせたりするような感じの映画だ。

 基本的には、彼の自由な生き方に対して、周りの人たちが共感し、自分たちもやりたいことをやってみようという気持ちになる、という物語だ。

 正直なことを言うと、この映画には、いい点と悪い点が二つがある。まず一つに、この主人公は、ちゃんと「漫画を仕上げて持ち込みに行っている」ということだ。自分も漫画家志望だったことがあるのだけれど、そもそも雑誌の規定に合わせて漫画を描くという行為自体が、非常に手間のかかることであることは疑いようがない。大口をたたいているけれども、ちゃんと「作品を仕上げる」という努力自体は認めてもいいんじゃないんだろうか。そこは素直に好感が持てた点だ。少なくとも「ボツです」というその言葉の威力というのは結構ある。

 この点については、漫画家になるための努力というのもわかる。とはいえ、悪い点というか気になる点もある。些細な点としては、「あんな下からの見上げるようなアングルのコマを不自然なく描けるのって、そこそこ漫画が上手いってことだよね」ということはできる。しかし一番大切なところとして、「なんでこの主人公に惹かれるのか」といった部分がよくわからない、というのがある。

 たぶん、これは二つの言い方ができる。単純に、僕がこの主人公に対して同意できないという趣向の問題になると思う。もう一つは、実は典型的に「なぜこいつのことを好きになるかわからない」という作品がある。それはいわゆる、エロゲーと呼ばれる、18禁の美少女ゲームだ。美少女ゲームにおいて、主人公がなぜその主人公が好きになるのかというのは世界七不思議のひとつでもあったりする。

 そういうおちゃらけはともかくとして、そういう無意識の欲望みたいなの(楽して誰かに愛してもらいたいよね)という部分を、ある程度は反映している。例えば、最後の、この漫画家志望の男と、その娘が仲良くなると思わせるシーンというのは、つまりそういうボンクラの欲望的な部分を刺激しているし、そもそも、持ち込みしている編集者が彼を誉める理由もよくわからなかったりする。

 厳しいところもちらほらあるのだけれども、しかし、大切なのは結果として「俺は本気を出していない」というのは、実は多くの人々が「俺は自由ではないだけ」という側面としてありうることを示唆しているということだ。つまり、自分は自由ではないから、という諦めの上に成り立つ何かなのだ。そして、「俺は本気を出していないだけ」と言い訳しているのは、主人公ではなくて、実は我々の言い訳なのではないかと思うこともあるのだ。